私たちは、科研費の支援を受けて、教育・福祉・特別支援教育の現場に資する情報プラットフォームの開発に取り組んできました。研究としての価値を持ちつつ、現場での実用性も追求したこの事業は、多くのユーザーに活用されはじめています。
しかし、科研費による支援は永続的なものではありません。この取り組みを継続・発展させていくためには、いくつかの視点からの見直しと工夫が必要です。本記事では、3つのテーマから事業継続のために必要な要素を整理してみたいと思います。
① モチベーション編:誰のために、なぜ続けるのかを問い直す
科研費プロジェクトは、期間と成果目標が明確に定められています。終了とともにプロジェクトは一区切りを迎えますが、「ここで終わらせてよいのか」という問いが生じています。
- 現場での反応があるからこそ続けたい
ユーザー(教員、保護者、福祉職など)からの声が、「このサービスがあって助かっている」「もっとこういう機能がほしい」という形で届いてくると、それは研究成果を超えた社会的意義を持ち始めます。 - 自分たちの実践・研究の軸になる
プラットフォームの運営は、単なる作業ではありません。自分たちの研究の方向性や専門性を可視化・発信し、仲間を増やす機会でもあります。 - 仲間を巻き込むモチベーションづくり
継続にはチームが必要です。ひとりで抱え込まず、共同研究者や後進、実践者とともに動くことで、モチベーションは分散され、持続可能になります。
② ファイナンス編:科研費終了後の運営体制と資金計画
現実的な課題として避けて通れないのが「お金」の問題です。科研費の終了後、事業を維持するためにはいくつかの選択肢があります。
- 自己資金だけに頼らない仕組みを考える
情報プラットフォームの運営には、サーバー費用やメンテナンスコスト、人件費が必要です。継続的なコストをカバーするためには、たとえば以下のような選択肢が考えられます:- 補助金や助成金(教育・福祉系財団など)への申請
- 利用者に応じた段階的な課金モデル
- 研究開発の成果をスピンオフとして法人化・事業化し、外部資金を導入
- 会員制度や寄付の導入
非営利であっても、価値を感じたユーザーが継続を応援できる「支援の仕組み」があると、プラットフォームに関わる人々の関係性がより豊かになります。
③ ユーザー編:使われ続ける仕組みづくり
どんなに優れた仕組みでも、「使われなければ存在しないのと同じ」です。継続にはユーザーの存在が不可欠です。
- ユーザーとの対話を続ける
利用者のニーズや使用状況を把握するために、定期的なアンケートやフィードバックを通して、開発に反映させることが重要です。 - 導入のしやすさ・使いやすさの向上
初めてでも迷わず使えるUI、簡潔なチュートリアル、Q&A機能など、技術的な配慮が「使ってみよう」という動機につながります。 - 「人を通して」広がる仕組みを作る
SNSや研究会、研修会での紹介や、事例報告書の共有など、「信頼する人からの紹介」で広がる仕組みづくりが効果的です。 - ユーザーを「参加者」にする
利用者がフィードバックを出したり、改善提案をしたり、場合によっては一部の機能開発に関わるような「共創」の仕組みがあると、自然と熱量は高まります。
最後に:研究の成果を、社会と未来につなぐ
情報プラットフォームは、「つくったら終わり」ではなく、「使われてこそ意味がある」ものです。科研費という限られた資源のなかで生まれた成果を、より広く、より長く届けるために、モチベーション、資金、ユーザーの3つの視点からの設計が欠かせません。
この取り組みが、次の研究や社会実装の足がかりとなり、多くの人にとって「役に立つ技術」となることを目指して、これからも粘り強く続けていきたいと思います。
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