こんにちは。今回は、特別支援教育の現場で改めて見直したい「シンボルコミュニケーション」と「補助具」について考えていきたいと思います。近年、技術の進歩や教育現場のICT化により、多様なコミュニケーション支援の方法が広がってきました。しかし、それらをどのように子どもたちの“自立”につなげていくかは、常に問い続けるべきテーマです。
シンボルコミュニケーションとは?
「シンボルコミュニケーション」とは、言葉だけでなく、写真・絵・ジェスチャー・音・配置・光・匂いなどを用いた、対象を象徴的に表すコミュニケーションのことです。視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、言語障害などなど、起因が異なれば選択する手段はかわりますが、コミュニケーションに課題がある子どもにとって、**意味を持った記号(シンボル)**を媒介とするコミュニケーションは、学びと生活をつなぐ大切な橋渡しになります。
このような記号の理解には時間がかかります。「犬=ワンワン」という言葉と対象の結びつきも、簡単なことではないのです。一貫した表現の使用と、繰り返しの経験が必要です。複数の名称やシンボルを使い分けることが混乱につながることもあります。
コミュニケーション支援の本質:拡大代替コミュニケーション(AAC)
AAC(Augmentative and Alternative Communication:拡大代替コミュニケーション)は、話すことが難しい子どもたちが自分の意思を伝えられるようにするための支援の総称です。
AACでは、以下のような多様な手段が使われます。
- 道具を使わない手段:視線、表情、ジェスチャー、発声
- 道具を使う手段:写真カード、イラスト、キーボード、スケジュールボードなど
重要なのは、「伝える手段が一つではない」こと。話せない=伝えられないではなく、「伝え方を教え、手段が使える環境を整える/本人が整えられるような力を育てる」ことが教育の役割です。
補助具を「使うこと」への葛藤と可能性
「電動車椅子に乗って初めて自由を感じた」というエピソードが象徴するように、補助具は“できないこと”を補うだけでなく、“できる世界”を広げる道具でもあります。
一方で、補助具を使うことへの罪悪感や周囲の目が、使用をためらわせる原因になることもあります。「自分だけ違う」という感覚や、教員・保護者の意識によって、その選択が狭められてしまうこともあります。
教員に求められること
- 補助具を「当たり前の選択肢」として扱う視点
- 使用に対して周囲が過剰に反応しないような安心できる環境づくり
- 本人の声に耳を傾け、選択肢を提示する姿勢
支援と自立のバランスを考える
講義の中では、「支援が多すぎると自立を妨げるのでは?」という意見も出ました。この問題は非常に重要です。
補助具は、外すことが目的ではなく、本人が自分らしく生活するための手段です。
つまり、「使い続けることで生活の質が上がるのであれば、無理に外す必要はない」のです。
ただし、補助具がなければ何もできない状態にならないように、「補助具が必要なとき」と「補助具がなくてもできること」の両方を意識した指導が求められます。
シンボルの「伝わり方」は一様ではない
例えば「世界の食糧問題」という教材に対し、ある知的障害のある児童が「ドーナツ・スパゲッティ・お母さん・子ども」といった連想をしたというエピソードがあります。
これは誤りではありません。その子にとっての“意味ある情報”がそこにあっただけです。
大切なのは、そこから「主題に近づくための補足説明や文脈づくり」をどうするか。
教材提示の際には、
- 何が伝えたいことなのか
- どの視覚・聴覚情報が混乱を招くのか
- 誰がどこまで理解しているのか
を丁寧に見極める必要があります。
教育のゴールが変わる中で
1人1台端末、音声読み上げ、タブレットでの文字入力…これらが当たり前になった現代では、「書けない=劣っている」という構図はすでに崩れつつあります。
今後、評価や教育の目的そのものが変わっていくかもしれません。
例えば、「漢字を書けないけれど、伝えたいことを文章にして表現できる子」に対して、私たちは何を“評価”するべきでしょうか。
まとめ:支援とは「選べるようにすること」
シンボルコミュニケーションも、補助具も、教材も、それ自体が目的ではありません。
子どもが 「伝えたいことを、伝えたい方法で伝えられる」ようにすること。
そのために、環境を整え、選択肢を示し、意味の理解を丁寧に支援することが、私たち教員の大切な役割です。
あなたの教室では、子どもたちは“伝える力”をどう育んでいますか?
今ある道具や教材、そしてあなた自身の言葉の使い方を、もう一度見直してみてください。
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