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【シリーズ】軽度知的障害や発達障害がある生徒を対象とした自立活動【実践研究~序章~】

このシリーズでは、軽度知的障害や発達障害がある生徒を対象とした自立活動について、A特別支援学校の取り組みを軸に紹介していきます。

※本記事の作成に当たり、A特別支援学校からの許可をいただいています。

今回は「序章」として、前提となる考え方実践研究の目的について紹介します。

知的障害、自閉・情緒障害がある生徒を対象とした自立活動

はじめに、自立活動の目標は以下の通りに示されています。

個々の生徒が自立を目指し,障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養い,もって心身の調和的発達の基盤を培う。

特別支援学校高等部学習指導要領

また、具体的な指導内容を設定する際には、次の点について考慮することが示されています。

ア 生徒が,興味をもって主体的に取り組み成就感を味わうとともに自己を肯定的に捉えることができるような指導内容を取り上げること。
イ 生徒が,障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服しようとする意欲を高めることができるような指導内容を重点的に取り上げること。
ウ 個々の生徒が,発達の遅れている側面を補うために,発達の進んでいる側面を更に伸ばすような指導内容を取り上げること。
エ 個々の生徒が,活動しやすいように自ら環境を整えたり,必要に応じて周囲の人に支援を求めたりすることができるような指導内容を計画的に取り上げること。
オ 個々の生徒に対し,自己選択・自己決定する機会を設けることによって思考・判断・表現する力を高めることができるような指導内容を取り上げること。
カ 個々の生徒が,自立活動における学習の意味を将来の自立や社会参加に必要な資質・能力との関係において理解し,取り組めるような指導内容を取り上げること。

特別支援学校高等部学習指導要領

このように、自立活動の指導を計画するときには、生徒自身が課題意識を持ち自分の得意・不得意を理解したり、自分に合う環境を理解したり、必要な支援について意思表示ができたり、生涯にわたって活用できるような知識、技能、態度及び習慣を養うことをめざすことが大切とされています。

実践事例に関する情報のニーズ

今回のシリーズでは、A特別支援学校(高等部)での自立活動の取り組み(実践研究)について紹介します。

このシリーズを扱いたいと考えた背景には、複数生徒の個別の課題に対してアプローチする自立活動の指導体制についての悩みを聞くことが度々あるからです。
また、A特別支援学校の自立活動の実践研究は、研究主任の先生の魂がこもっていて、多くの学校、先生方に知っていただきたいという想いもあります。

特別支援学校(知的障害)高等部の自立活動の指導体制に関わる課題として本吉・倉田(2021)は以下のように述べています。

障害の状態は個々に異なるため、自立活動の指導を行う上では詳細な実態把握から目標や内容を設定してくことは不可欠である。しかし、1クラスの教師と子どもの人数比の関係で、全ての児童・生徒に対して教師との1対1の指導時間を設定することは難しい。集団での指導形態をとり、その中で個々の課題にアプローチする展開の工夫もある。とは言うものの、個々の課題分析やニーズの把握を詳細に行うと課題が細分化していくため、グルーピングや活動設定の悩みは多くの学校で共通していると考えられる。

本吉大介・倉田沙耶香(2021)知的障害特別支援学校高等部における既存のデータとデジタルツールを活用した自立活動指導体制の構築と指導実践,熊本大学教育実践研究,第38号,99-107

「自立活動の主旨&障害の特性&学校の指導体制×働き方改革」

自立活動の指導体制構築に関わっている先生方は、これらの要因を考慮した最適解を導き出すことが求められている状況です。

このシリーズで紹介するA特別支援学校の取り組みは、バランス意識された実践研究でした。
自立活動の指導体制づくりに取り組まれている学校、先生方の参考になる情報です!

研究テーマ

A特別支援学校では、自立活動の指導について学校全体で研究に取り組まれました。
実践研究の概要について、提供いただいた研究紀要の中から引用して紹介いたします。

研究テーマ

高等支援学校におけるキャリアを繋げる授業「自立活動」の導入
~卒業後の社会自立と職業自立に繋がる授業実践~

卒業後の人生全体を視野に入れた自立活動の研究です!

ウェルビーイングの要素も含まれていて、生徒の人生のことを考えたテーマ設定となっています💡

研究テーマ設定の理由(1)法的根拠

特別支援学校の目的については、学校教育法第72条において「特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする」と述べられています。

「障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授ける」指導とは、すなわち自立活動のことであり、特別支援学校の教育課程において特別に設けられた指導領域で、教育課程上重要な位置を占めるものと言えます。特別支援学校の全ての教師が自立活動の指導を行うことが必要で、指導力を高めるための専門性の向上に励むことが大切です。

平成31年2月特別支援学校高等部学習指導要領が公示されました。今回の改訂のポイントとして、全ての学校に在籍する発達障害を含めた障害のある子どもたちに対して特別支援教育の改善・充実を図るために、自立活動の一層の充実、知的障害児童生徒が学ぶ各教科の改善等が挙げられています。

また、「一人一人に応じた指導の充実」が述べられており、発達障害を含む多様な障害に応じた指導を充実するため、自立活動の内容である「1健康の保持」の区分に「(4)障害の特性の理解と生活環境の調整に関すること」の項目が新たに設けられました。さらに、自己の理解を深め、主体的に学ぶ意欲を一層伸長するなど、発達の段階を踏まえた指導を充実するため、「4環境の把握」の区分の「(2)感覚や認知の特性」の項目に「理解」の文言が付け加えられました。

このことから分かるように、発達障害や重複障害を含めた障害のある生徒の多様な障害の種類や状態等に応じた指導を一層充実させることが示されています。

一方、「自立と社会参加に向けた教育の充実」に関しても触れられており、卒業後の視点を大切にしたカリキュラム・マネジメントを計画的・組織的に行うことが規定されています。つまり、障害のある子ども一人一人の教育的ニーズに対応した適切な指導や必要な支援を通して、自立と社会参加に向けて育成を目指す資質・能力を身に付けさせていくことがさらに強く求められていると解釈できます。

研究テーマの設定理由(2)生徒の状況

A特別支援学校は、軽度の知的障害を有する生徒を対象としています。「社会自立・職業自立」という教育目標のもと、毎年多くの生徒が職業人として社会に巣立っています。

開校以来、約70%の一般就労率を誇っており、在校生、卒業生の努力により、多くの企業から信頼され、関心を寄せられている状況にあります。

在校生にある課題や特性
  • 相手のことが理解できずに人間関係がうまくいかない
  • 自分の気持ちや考えを適切に伝えられない
  • 感情のコントロールが難しく、心理的な不安定さを抱えている
  • 何事にも自信がなく、自己肯定感が低い
  • 自己理解が不十分で、ストレスに弱い

上記の課題や特性を背景に、学校内外で様々なトラブル、問題行動の発生があり、特別指導で学び直しを行う生徒も少なくない状況があります。

卒業生が抱える課題や不安
  • 生活リズムが崩れる
  • 職場での人間関係がうまくいかない
  • 仕事に対するやる気がなくなる
  • 相談する相手がいなくて我慢してしまう

これらの課題が表面化し、場合によっては離職につながる場合もあります。

生徒指導上の課題
  • 不登校
  • 不健全な異性との交遊
  • 家庭での暴力
  • SNSでのトラブル

上記のような生徒指導上の課題もありますが、その背景には、知的機能の発達の遅れ適応的な行動の未学習や誤学習など、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられます。

研究テーマの設定理由(3)教職員の現状

教職員の現状
  • 高校籍の教員、特別支援学校の経験が浅い教職員が比較的に多い
  • 職員の半数以上が講師で占められている

自立活動はもとより、特別支援教育そのものの知識や指導に関しても専門性を高めていく必要があります。

研究テーマの設定理由(4)課題意識

このような様々な状況の中で、個々の生徒が自立を目指し、障害に基づく種々の困難を主体的に改善・ 克服するために必要な知識や技能、態度などを学校生活で学習していますが、特に自立活動の内容(「人間関係の形成」「環境の把握」「コミュニケーション」「心理的な安定」)が密接に関係していると考えられます。

これまで自立活動は授業時間を設定して行う指導ではなく、教育活動全体で行うという考え方で取り組んできましたが、指導目標・指導内容の設定、実践、評価に対する意識や取り組みの改善が必要です。また、各教科等の指導の基盤を形成するものが自立活動であるという認識も高めていく必要があります。

これらのことから、自立活動の授業時間を設定して指導する必要性があると考え、今回の研究テーマを設定しました。これは「キャリアを繋ぐ」「人と繋がる」「社会と繋げる」という学校経営方針にも合致しています。

研究の目的と内容

本研究では、自立活動の時間における指導を積み重ねることで、生徒の変容及び教職員の専門性の向上をめざします。

本研究の目的
  • 段階的に自立活動の授業を導入し、最終的に週時程に位置づけることで、個々の生徒が自己理解を深め、主体的に学ぶ意欲を育む自立活動を充実させることができる。
  • 自立活動に取り組むことで、個々の生徒の困難や課題の軽減に繋がり、人間として調和のとれた安定した生活を過ごすことができる。
  • 自立活動の時間における指導を行うことで、教職員の専門性の向上ひいては教育活動全体が総体的にレベルアップすることにつながる。
  • 地域の知的障害特別支援学校、特別支援学級及び高等学校における通級による指導の先駆的役割を果たす。
研究の内容
  • 知的障害を有する生徒の自立活動の在り方
  • 実態把握から目標設定を行うためのアセスメントツールの作成
  • 個々の生徒の目標に即した授業実践
  • PDCAサイクルに基づいた授業改善

次回「指導計画に関わる実態把握ツールの紹介」

次回の記事は「指導計画に関わる実態把握ツールの紹介」を扱っていきます。

  1. 自立活動チェックリスト
  2. チェックリスト集計表
  3. 自立活動アセスメントシート

上記の3つのツールについて紹介します。

取り組みの全体像から「生徒と一緒に考える自立活動」というフレーズが浮かぶ実践研究です💡

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