― 教師のための実践ガイド:教育現場で安全・効果的に翻訳を活用する ―
1. はじめに:翻訳は教育現場の新しい日常へ
近年、外国にルーツをもつ児童生徒やその保護者への対応、国際理解教育、海外との協働学習など、教育現場における多言語コミュニケーションの機会が増えています。
こうした場面で役立つのが、表計算ソフトに搭載された翻訳関数です。
これまで翻訳機能といえば Google スプレッドシートの =GOOGLETRANSLATE() が代表的でした。
しかし 2025 年、Microsoft Excel にも標準翻訳関数 =TRANSLATE() が正式搭載されました。
この記事では、両者の特徴・活用法・組織運用の留意点を整理し、学校現場での効果的な使い分けを提案します。
2. 基本仕様と構文の比較
| 項目 | Excel TRANSLATE | Google スプレッドシート GOOGLETRANSLATE |
|---|---|---|
| 翻訳エンジン | Microsoft Translator | Google 翻訳 |
| 利用環境 | Microsoft 365(最新チャネル) | Google アカウント(無料)または Google Workspace for Education |
| 構文 | =TRANSLATE(A2,"ja","en") | =GOOGLETRANSLATE(A2,"ja","en") |
| 対応言語数 | 約100言語 | 約130言語 |
| オフライン利用 | 不可(クラウド通信) | 不可(クラウド通信) |
| 利用料金 | Microsoft 365 サブスクリプション内 | 無料 |
| 翻訳の傾向 | 文法的に正確・フォーマル | 自然で口語的・柔軟 |
| 主な利用対象 | 校務・報告・文書 | 授業・共同作業・掲示物 |
どちらの構文も非常に似ており、基本操作は共通です。
たとえば「セル A3 の日本語を英語に翻訳する」場合は、次のように記述します。
- Excel:
=TRANSLATE(A3, "ja", "en") - Google スプレッドシート:
=GOOGLETRANSLATE(A3, "ja", "en")


左はエクセル、右はスプレッドシートです。Aセルの日本語を翻訳した様子です。(スプレッドシートは多国籍の生徒が複数いる場合を想定して作成しています。詳しくは↓)。
3. 翻訳の特徴と精度傾向
| 観点 | Excel TRANSLATE(Microsoft Translator) | GoogleTRANSLATE(Google 翻訳) |
|---|---|---|
| 翻訳の傾向 | 形式的で文法に忠実。ビジネス文書や報告書に適する。 | 意味を汲んだ自然な訳。掲示や学習活動に向く。 |
| フォーマット保持 | セル内の書式を比較的保ちやすい。 | 書式は失われることが多い。 |
| 処理速度 | 安定して高速。大量データ処理に強い。 | 同時翻訳が多いと遅延(Loading表示)しやすい。 |
| 利用安定性 | Microsoft 365 の安定した基盤上で動作。 | Google サーバー依存。接続環境による影響あり。 |
| 対応文体 | 公文書・報告・学内通知 | 会話・教材・日常表現 |
4. 教育現場での活用例
| 活用場面 | Excel TRANSLATE | GoogleTRANSLATE |
|---|---|---|
| 校務文書・報告書 | フォーマルな表現で報告・通知文を翻訳 | 非公式文書ではやや不自然になる場合あり |
| 授業教材づくり | 英文例や外国語教材の作成に活用可 | 翻訳結果を比較する授業活動にも応用可 |
| 国際理解教育 | 英語学習や翻訳体験の題材として使用 | ALTや海外提携校との交流に最適 |
| 保護者対応 | 保護者宛文書や配布資料を安全に翻訳 | すぐに多言語化でき、柔軟な対応が可能 |
| 協働翻訳活動 | 個人利用向き(校務中心) | 生徒と共有してリアルタイム翻訳が可能 |
5. セキュリティと組織管理の違い
Microsoft 365 の特徴
- 翻訳処理は Microsoft Translator サーバー上で一時的に行われ、永続保存されない。
- Microsoft Purview(情報保護)や Intune(端末管理) により、管理者が翻訳利用範囲を制御可能。
- 校務文書・個人情報を含むファイルの取り扱いに向く。
- 翻訳関数は Microsoft 365 サブスクリプションユーザーに限定され、利用者を明確に管理できる。
Google Workspace の特徴
- Google Workspace for Education 環境でも利用可能(ただし管理者が Translate サービスを無効化している場合は不可)。
- 翻訳データは広告目的に使用されず、教育契約下で保護される。
- 組織単位(OU)で利用範囲を制御できるが、Microsoft ほど細かいDLP設定は難しい。
- 生徒や教員の共同編集を前提にした運用に向く。
6. 管理者視点の比較(導入・運用)
| 管理観点 | Microsoft 365 | Google Workspace |
|---|---|---|
| 翻訳機能の提供形態 | Excel機能として標準搭載(Current Channel以降) | スプレッドシートの標準関数として常時利用可 |
| 管理者による制御 | 翻訳API・アプリ利用をポリシー単位で設定可 | 翻訳サービスの有効/無効を組織単位で設定可 |
| 利用者範囲 | ライセンス契約者のみ | 組織全体/部門単位で柔軟に設定可 |
| ログ監査 | Microsoft 365 管理センターで詳細記録 | Google Admin Consoleでサービス利用ログ確認可 |
| 情報保護対応 | DLP、暗号化、条件付きアクセスなど多層防御 | 教育用ポリシーに準拠(広告利用なし) |
7. 教師が使い分けるための実践的指針
| 状況 | 推奨ツール | 理由 |
|---|---|---|
| 校務・報告・通知文書 | Excel TRANSLATE | 正確でフォーマル、DLP対応 |
| 授業活動・共同翻訳 | GoogleTRANSLATE | 共有・同時編集が容易 |
| 保護者対応(多言語案内) | どちらも可 | 内容の機密性と利用環境で判断 |
| 国際理解学習・英語活動 | GoogleTRANSLATE | 翻訳結果を共有しながら学習可 |
| ICT部門での校務効率化 | Excel TRANSLATE | Teams・Word・PowerPoint連携が容易 |
8. 翻訳活用時の注意点
- 個人情報・支援記録は翻訳にかけない。
翻訳関数はクラウド通信を伴うため、個人識別情報を含む文書は対象外とする。 - 翻訳結果は必ず人の目で確認する。
誤訳による誤解やトラブルを避けるため、必ず教員・ALT等が内容確認を行う。 - 教育目的を明確にする。
「文法理解」「文化比較」「言語の違いへの気づき」など、学習目的を設定して使用する。 - 翻訳利用の校内ルールを整備する。
特にMicrosoft 365 と Google Workspace の両方を併用している学校では、「用途別の推奨ツール」を整理して共有する。
9. 導入時の整理ポイント(管理職・ICT担当向け)
| チェック項目 | 内容 |
|---|---|
| 利用範囲 | 校務・授業いずれで利用するかを明確化 |
| データ扱い | 個人情報・支援記録を扱う文書はExcel推奨 |
| 管理体制 | 管理者が翻訳サービスを許可しているか確認 |
| 利用ガイド | 教職員・生徒向けの使い方指導を用意 |
| 検証体制 | 翻訳精度や使いやすさの比較検証を継続実施 |
10. まとめ:目的に応じた安全で効果的な使い分けを
翻訳機能は、もはや教師にとって欠かせないICTツールです。
ただし「便利さ」だけで選ぶのではなく、翻訳対象・利用目的・情報の機密性に応じて適切に使い分けることが大切です。
🔹 Microsoft 365 の TRANSLATE:校務や報告に強く、情報管理と精度を重視したい場合に最適。
🔹 Google スプレッドシートの GOOGLETRANSLATE:授業・協働学習・国際理解活動など、リアルタイム性と柔軟さを求める場面に最適。
翻訳は「教員の業務を支えるツール」であると同時に、
「子どもたちの言語理解や文化理解を広げる教材」にもなり得ます。
安全性と教育的効果の両面を意識して、学校全体での活用を検討していきましょう。




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